誰も教えてくれなかったピアノ教室・音楽教室ホントの話

業界裏話

ピアノ教室の月謝が値上げできない異常事態の理由

ピアノ教室の月謝が値上げできない異常事態の理由

「ピアノ教室の月謝って、昔から変わってない気がする」

そう感じたことはありませんか?実はその感覚、正しいんです。

私が音楽教室業界に関わってきた中で、ずっと違和感を覚えていたことがあります。それは、ピアノ教室だけが、この物価高の時代に取り残されているという現実。

今回、総務省の統計データを調べて驚愕しました。2019年から2025年の6年間で、ピアノ教室の月謝はわずか8.5%しか上がっていません。同じ期間にスイミングスクールは16%も値上げしているのに。

これ、「安くて助かる」という話ではないんです。むしろ、保護者にとっても先生にとっても、誰も得しない歪んだ構造なんです。

他の習い事はしっかり値上げしている

他の習い事はしっかり値上げしている-ONFAN

まず、データから見ていきましょう。

スイミングスクールは2019年から2025年の6年間で16%も値上げしています。2019年4月の6,720円から2024年5月には7,863円へ。燃料費高騰でプールの温水・暖房コストが上がったから、月謝も上がる。当然のことです。

一方、ピアノ教室はわずか8.5%しか上がっていません。2019年の平均7,596円から2025年は8,242円。たった646円の値上げです。

ちなみに、同じ期間の消費者物価指数(全体の物価上昇率)は13.5%も上がっています。つまり、ピアノ教室だけが物価上昇に追いついていないんです。

「適正価格」で計算したら、本当はいくらになる?

もし2005年の月謝を7,000円とした場合、物価上昇率13.5%を反映させると、2025年の「適正月謝」は約7,945円になります。

でも実際の現場では、個人教室で「20年前から月謝6,000円のまま」という先生も珍しくありません。

つまり、20年間、先生たちは実質的な値下げを続けてきたということです。

保護者は「高い」、先生は「安すぎる」という矛盾

ピアノ教室の月謝が値上げできない異常事態の理由

ここで不思議なのが、保護者と先生の温度差です。

保護者の本音 「月謝7,000円は高い。スイミングと同じくらいするし」

先生の本音 「時給換算したら最低賃金以下。これ以上安くできない」

どちらも間違っていません。でも、なぜこんな矛盾が生まれるのか?

ヤマハ音楽教室の講師報酬の実態

大手音楽教室の講師報酬を見れば、この構造が見えてきます。

ヤマハ音楽教室の場合、月謝の50〜60%が講師に支払われ、会社が40〜50%を取ります。例えば、月謝8,000円の生徒が10人いても、講師の月収はわずか4万円程度。しかも、発表会の準備やミーティングには報酬が出ません。Yahoo!ニュースの報道によれば、ヤマハ音楽講師ユニオンの調査で、講師の51.2%がレッスン中や通勤途上での事故・怪我を経験しているというデータもあります。

カワイ音楽教室の公式求人情報では、生徒1名につき月額1,900円からと公表されています(グレード取得により昇給あり)。新人講師で生徒10〜12人だと、月収4万円程度。年収は50〜200万円が多いそうです。

賃金は上がっているのに、ピアノの先生だけ取り残されている

「でも、音楽教室の先生って昔から給料安いでしょ?」

そう思うかもしれません。でも、データを見ると違います。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、2000年から2020年の20年間で女性の賃金は全体で約14%上昇しています。2024年には一般労働者(女性)の月額賃金は275,300円となり、前年比で4.8%も上がりました。

特に注目すべきは、教育学習支援業で働く女性の賃金が323,500円と、全産業の中でもトップクラスだということ。2023年のデータでは、時給換算で女性2,189円と全産業中最高でした。

つまり、学校の先生や塾講師は賃金が上がっている。でも、ピアノ教室の先生だけが取り残されているということです。

なぜか?

ピアノ教室が多すぎる-ONFAN

個人教室の先生が値上げできない理由はいくつかあります。まず、ピアノ教室が多すぎるんです。全国に推定2万軒で、保育園とほぼ同じ数。でも保育園には約270万人の子どもが通っているのに対し、大手2社(ヤマハ・カワイ)だけでも生徒数は約40万人程度。個人教室を含めても、保育園の利用者数には遠く及びません。その少ない生徒を、2万軒で奪い合っているんです。

さらに、SNSで「あそこは6,000円」という情報がすぐ広まる価格比較の透明化も値上げを難しくしています。

何より大きいのは、「高いと思われたら生徒が辞めるのでは」という恐怖感。そして、ヤマハやカワイより高くできないという大手との価格競争

結果、先生たちは物価が上がっても月謝を据え置き、自分の取り分を削って耐えているんです。

この構造は誰も得しない

低報酬では優秀なピアノの先生が育ちにくい-ONFAN

「月謝が安いなら保護者は得じゃない?」

いいえ、違います。

まず、低報酬では優秀な先生が育ちにくいんです。指導技術を磨く余裕がないから。そして、生活できないベテラン講師は他の仕事に転職していきます。残った先生も複数の仕事を掛け持ちして疲弊し、レッスンの質が下がる。最終的には後継者不足で教室が突然閉鎖、なんてことも。

実際、私が知っている優秀な先生の中には、「もう続けられない」と辞めていった人が何人もいます。音大を出て、指導力もあって、生徒思いの先生が、です。

先生はどうでしょう。年収50〜200万円では自立できません。生活のために他の仕事をするため、レッスンの準備時間も十分に取れない。専門職なのに最低賃金以下という現実は、職業としての尊厳すら奪っていきます。

そして業界全体も疲弊していきます。「ピアノの先生になりたい」という若者が減り、経験豊富な先生が減り、指導の質が下がる。音楽教育の裾野が縮小していく。これは文化の衰退です。

今、保護者ができること

持続可能な音楽教育のために-ONFAN

「じゃあ、私たち保護者はどうすればいいの?」

3つのことを意識してほしいんです。

1. 「適正価格」を理解する

月謝7,000円が高いか安いか。それは、何と比べるかで変わります。

コンビニバイトは時給1,500円。30分で750円です。一方、ピアノレッスン30分は月謝7,000円を4回で割ると1,750円。でもこれ、レッスン時間だけの話。先生は、レッスン前の準備、レッスン後の記録、発表会の選曲、保護者対応…すべて含めて時給換算すると、最低賃金を下回ることもあります。

2. 「安さ」だけで選ばない

「月謝5,000円」の教室と「月謝8,000円」の教室。

安い方を選ぶ気持ちはわかります。でも、安くしすぎると何が起きるか考えてみてください。先生が十分な準備時間を取れなくなる。他の仕事との掛け持ちで疲弊してしまう。結果、レッスンの質が犠牲になってしまう。

逆に、月謝8,000円の教室は高く見えるかもしれません。でも、その先生がどれだけ準備に時間をかけているか、一人ひとりに合わせた指導をしているか、発表会やコンクールのサポートをどこまでしてくれるか。中身を見れば納得できるはずです。

3. 子どもへの「投資」として考える

ピアノは、一生の財産になります。音感、リズム感、表現力。集中力、継続力、達成感。感性、創造力、自己肯定感。これらを育てるのに、月7,000〜8,000円は高いでしょうか?

スイミングは月7,863円。英会話は6,000〜8,000円。公文は1教科7,020円。ピアノだけ「高い」と言われる理由はありません。

「ピアノは高い」という誤解の正体

「ピアノは高い」という誤解の正体-ONFAN

ただし、保護者が「ピアノ教室は高い」と感じる理由には、もう一つの側面があります。

それは、楽器購入費です。

スイミングなら水着を買い替えるだけで数千円。英語教室は教材があればOKで年間数千〜1万円。でもピアノは、アップライトで30〜80万円、電子ピアノでも5〜15万円かかります。

この初期投資があるため、「楽器にお金かかったんだから、月謝くらいは安く」と考える保護者心理は、正直、理解できます。

だからこそ、先生側も月謝を上げにくい。「高い楽器買ってもらってるのに、月謝まで値上げなんて言えない」という遠慮が働くんです。

でも今は、電子ピアノという選択肢がある

時代は変わりました。

電子ピアノの性能は格段に向上し、初心者〜中級者なら十分に対応できます。住宅事情を考えると、むしろ電子ピアノの方が現実的な選択肢です。

「生のピアノじゃないとダメ」という固定観念は、もう古い。

実際、多くの個人教室でも電子ピアノでのレッスンを認めています。

楽器のハードルが下がった今こそ、「指導」という専門技術への対価をきちんと考える時期に来ています。

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データで見えてきたのは、誰も得しない構造でした。

保護者は「高い」と感じ、先生は「安すぎる」と悲鳴を上げ、業界全体が疲弊している。

大手音楽教室は、講師への報酬率とレッスン外業務への対価を見直す必要があります。発表会準備やミーティングに報酬が出ないのは、もはや時代遅れです。

個人教室の先生たちも、勇気を持って適正価格を提示していい。20年間据え置きは、もう限界なんです。

そして保護者の皆さん。もし今通っている先生が「値上げします」と言ったら、それは先生が教室を続けていくための最低限の防衛線だと理解してあげてください。

まとめ:音楽教育の未来のために

ピアノ教室の月謝が20年間ほぼ据え置きという異常事態。

これは、「保護者に優しい」という美談ではありません。先生たちが限界まで我慢して、業界全体が疲弊している危険信号です。

優秀な先生が辞めていき、後継者が育たず、音楽教育の質が下がっていく。

そんな未来を望む人はいないはずです。

だからこそ、今こそ「適正価格」について考える時期に来ています。

あなたのお子さんを教えてくれる先生が、安心して仕事を続けられる環境。それを作るのは、私たち一人ひとりの意識なんです。


【出典・参考資料】

  • 総務省「小売物価統計調査」(ピアノ教室・スイミングスクール月謝データ)
    • データ参照: https://price.w3g.jp/piano-class
    • データ参照: https://price.w3g.jp/swimming-class
  • 総務省「消費者物価指数」
    • 明治安田生命: https://www.meijiyasuda.co.jp/dtf/lfm/money/articles36.html
  • 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(教育学習支援業の賃金データ)
    • 令和5年: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/13.pdf
    • 令和6年: https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2025/05/kokunai_02.html
  • 日本経済新聞「習い事値上がり、水泳が先行」(2022年2月)
    • https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79732380R00C22A2EAC000/
  • ヤマハ音楽講師の報酬・労働環境に関する情報源
    • Yahoo!ニュース(今野晴貴)「ヤマハ音楽教室を講師が告発」: https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d0a903bc8a1e298c6da2be3965402b1dcab8a49b
    • 音楽講師ナビ: https://www.3on3live.biz/instructor/yamaha-salary.html
    • 転職ステーション: https://www.tensyoku-station.jp/info/4439/
  • カワイ音楽教室講師の報酬に関する公式情報
    • カワイ音楽教室 採用ホームページ: https://job-gear.net/kawairecruit2/all/ona_1_20_DUD,ID/MLkyujin_l.htm
    • カワイ音楽教室 契約・報酬・制度について: https://lecturer.kawai.jp/recruit/exam/contract.php

読了時間:約8分 文字数:約4,800字

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音葉

音葉

音楽教室ウォッチャー

音楽教室業界に関わって10年以上。楽器店での販売・教室運営サポートを経験し、現在はフリーライターとして活動中。 業界の内側を知っているからこそ書ける「誰も教えてくれなかった話」をモットーに、保護者が本当に知りたい情報、先生が言いにくい本音を発信しています。 自身も4歳からピアノを習い、今は小学生の子どもを音楽教室に通わせる"現役の保護者"。親として感じる疑問や不安も、記事に反映させています。 好きな作曲家はドビュッシー。子どもの発表会では毎回キャパ超えで号泣する、ごく普通の音楽好きな親です。

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