音大生の音楽大学を卒業してからの進路といえば、演奏家や音楽の先生など音楽関係の道に進むと考えられるのが一般的かもしれませんが、昨今の就職難は音大生にとっても深刻な問題で、音楽に関係しない一般企業に就職する音大生も増えてきているようです。
その一方で、せっかく音大を卒業したのに音楽関係の道に行かないのは勿体ないのでは?酷いと「負け組」まで言う人もいるのですが、果たして真相はどうなのでしょう?


音大を卒業した音大生の就職先で一番多いのはやっぱり音楽関係なんでしょうか?

そうとも言い切れないと思うんだよね。確かに他の大学に比べれば音楽関係に進む卒業生が圧倒的に多いのは当然だけど、進学で大学に留まる人もいれば留学する人も多いし、就職と考えると全体の半分。更に就職先が音楽関係という人は更にその中の半分と言われているよ。

そうなると、就職した音大生の半分は音楽以外の就職先ということになるんですね。だけど、進学や留学で音楽の世界にとどまっている人もいるということは、多くの音大生はやっぱり音楽関係の道に進むということになるのでは?

ただ、実際は全体の2割が就職や進学などではなく、フリーターをしながら演奏家を目指しているという音大卒業生だし、進学や留学をした音大生がその後、どういう進路に進んだかは分からない点もあるから、必ずしも音楽関係が多いとは言い切れないと思うんだ。

よく、音楽の道に進まないのに音大に行くのは勿体ないと言う人もいると聞きますが?

確かにそう言う人はいるね。音大を卒業したなら演奏で生きて行くべきと考える人も多いようだし。だけど、今の時代、音大だから卒業後は音楽だけで生きるのが当たり前という考え方もちょっと古いと思う。それを詳しく解説してみよう。
音大生の卒業後の進路・就職先はどうなっているか?
先程の二人の会話のように、音大卒業後の進路や就職先はある程度の統計が取られています。
・企業や団体に就職 35%
・音楽教室講師・音楽教員 15%
・演奏家 5%
・進学や留学 25%
・就職も進学や就学もしていない 20%
一般的には上のような内訳になっていて、演奏家や音楽講師などの音楽を専門分野の仕事とした音大生は全体の20%程度しかいません。そして、企業や団体の中には楽器店やコンサートホール、自衛隊の音楽隊などの音楽関係の就職先も多いですが、音楽とは無縁の一般企業に就職する音大生も少なくないのが現状です。
また、就職も進学もせずに演奏家や講師になる準備をするためにフリーターになる音大生も20%いて、音大卒業後に安定した収入を得られる仕事に就いている割合を考えると、演奏家といっても駆け出しから安定した収入は得られませんし、音楽教室の講師も最初から生徒が付くわけではありませんから、全体の半分未満ということになります。
平均年収や仕事環境で考える音大卒業生の進路

次に音大卒業後の平均年収について考えてみましょう。
音楽関係の就職先で最も多いのは楽器店だと思いますが、楽器店の平均年収は300万円未満から400万円以下と、年収的にはかなり水準が低い業種となります。ただし大手のヤマハなどに就職できれば年収はもっと上をいきますが、中小の楽器店ですと年収が低く、平日は楽器の販売や企画、週末はコンサートの運営とまともに休みを取れない会社も多く、今もなおブラック企業が多い業種でもあるので、選択する際は注意が必要です。
音楽教室講師ですが、平均年収は370万円と言われています。ただし、先生によって生徒数に差がありすぎる業種でもあるので、みんなが平均して370万円というわけではなく、50万円の人もいれば500万円の人もいるという見方の方が正しいです。全ては生徒数頼みという点では、安定した職種とはいえないのが正直なところです。
音楽の教員になると公務員になりますので、年収は350万円~700万円と安定した収入を得ることができます。
ただし、音楽の教員になるということは教職員試験を突破しなくてはならず、定員も限られているため狭き門となる職種です。
演奏家にはいろいろな道があるのでは一概には言えませんが、例えばオーケストラの場合、年収200万円~1000万円。ただし音大生でも全体の5%しかなれない職種ですので、中には卒業後もフリーターをやりながら演奏家を目指す人も多いのが実状です。
実は重宝される傾向が出てきている一般企業での音大生

さて、これまでの傾向を考えると、音大を卒業しても音楽関係で安定した職業に就くことは正直、なかなか難しく、何の道に進むにも厳しい道のように思えるのですが、「音楽」ということを取り払って進路を考えるとまた別な見方が見えてきます。
実は音大を卒業して音楽の関係のない一般大学に就職する音大生も昨今は増えていていて、企業側から見ると音大生は重宝されやすくなってきているという事実があります。
というのも一般の大学生と比べ、音大生は音楽という一つのことを追求するという経験をした学生が非常に多く、努力を人一倍経験しているので苦労を惜しまない。楽器や音楽に携わっていたため集中力が人並み以上。小さい頃から楽器と音楽に触れているため右脳が発達して創造力が逞しく、難題の解決方法を他にはない視点で解決に導く。しかも、お客さんとの挨拶で「音大卒」というと珍しく一目置かれる。
といった特徴を持っているので、音楽に関係のない企業も音大生を採用するという動きが出てきています。
音楽に因われてしまうと道は限られてしまうのですが、もっと広い視野で進路を考えると、一般企業という面白い道も見えてくるのです。
これからの時代の働き方「複業」に適した音大卒業生
そして、これからの時代は、人間の持っている個性を重要視する多様性の時代に突入していきます。
得意なことを活かす仕事をするために、就職して仕事を与えてもらうだけではなく、自分で自由に仕事を作れる時代、「複業」の時代がやってきます。
一般企業に就職したからといって、音楽の道から離れるわけではなく、自分の音楽力を最大限に活かした仕事を作ることもできます。例えば、楽器店でコンサートを企画するのは当たり前の話ですが、一般企業でお客さんが喜ぶようなコンサートを企画すると今までにない斬新な企画となる可能性があります。音楽と無縁な企業だからこそ、音楽と演奏は珍しく重宝され、音大生の能力がフルに生かされる場面が出てくるはずです。
また、一般企業で働いてから自分で音楽教室を立ち上げて独立する卒業生もいますし、働きながら演奏活動をしている卒業生もいます。これからの時代は一つの生き方に縛られない「複業」が、面白い生き方になる時代です。
一般企業で働くことは音大生にとって負け組でもなんでもありません。むしろ、自由に自分の人生と働き方をデザインできる勝ち組なのです。