「最近、近所のヤマハ音楽教室が閉鎖された」「うちの子が通ってた教室、なくなっちゃった」——ママ友との会話やSNSで、そんな声を耳にする機会が増えました。
実際、全国のヤマハ音楽教室の数は減り続けています。かつて6,000〜7,000箇所あった会場は、今や2,200箇所前後。生徒数もピーク時の約50万人から30万人程度にまで落ち込んでいます。
これだけ聞くと「ヤマハ音楽教室、大丈夫なの?」と心配になりますよね。
ところが、です。
ヤマハ音楽教室は依然として音楽教室業界の最大手。「苦しいのでは?」という予想に反して、むしろ経営は安定しているように見えます。
なぜ教室が減っているのに、ヤマハ音楽教室は揺るがないのか?
その答えは、海外展開と管理費の値上げ、そして教室の”選択と集中”という、したたかな戦略にありました。
数字で見る「ヤマハ音楽教室の縮小」の実態
まず、現実を直視しましょう。
ヤマハ音楽教室の国内での縮小は、想像以上に進んでいます。
この20年間で起きた変化を整理すると、生徒数は約50万人から約30万人へと約40%も減少。会場数は6,000〜7,000箇所から2,200箇所前後へと半減以下になっています。特に2010年から2012年にかけては、わずか2年で5万人以上が離脱したというデータもあります。
少子化、家賃の高騰、講師不足、そしてコロナ禍——理由は複合的ですが、縮小のスピードは業界関係者でも驚くほどです。
ヤマハ音楽振興会の経常収益は2024年時点で約208億円。これはピーク時からすると大きく落ち込んだ数字です。さらに、かつて年間11万台以上売れていたピアノの販売台数も、今は1万台台にまで減少。音楽教室と楽器販売の”相乗効果”という、かつてのビジネスモデルも弱体化しています。
ここまで見ると「ヤマハ音楽教室、本当に大丈夫なの?」と思いますよね。
でも、ヤマハ音楽教室は揺るぎません。その理由を見ていきましょう。
生き残れる理由①:海外で爆発的に増える生徒たち

国内が縮小している間、ヤマハ音楽教室は何をしていたのか?
海外で、めちゃくちゃ生徒を増やしていたのです。
2022年の年次報告書によると、海外の音楽教室登録者数は年間10万人以上のペースで増加。累計で70万人を超えるレベルに達しています。
アジア、欧米を中心に新規開校・拡張が進んでおり、「YAMAHA」のブランドは世界中で通用する状況になっています。シンガポール、アメリカ、中国、インドネシア——世界各地で「ヤマハで音楽を習う」ことがステータスになりつつあるのです。
日本では「ヤマハ音楽教室、また閉鎖か…」と暗いニュースが流れる一方で、海外では「ヤマハ音楽教室、また新教室オープン!」というニュースが流れている。この対比、知らない人が多いのではないでしょうか。
つまり、ヤマハ音楽教室は国内で縮小しながら、海外で拡大しているのです。
グローバル企業として見れば、日本市場はもはや「いくつかある市場のひとつ」に過ぎません。日本で教室が減っても、世界全体で見れば成長している——これがヤマハ音楽教室の現実です。
生き残れる理由②:管理費の”じわじわ値上げ”戦略

もうひとつ、私たち保護者の財布に直接関わる話をしましょう。
ヤマハ音楽教室に通うと、月謝とは別に「施設費」や「管理費」という名目で、毎月数百円〜数千円を支払いますよね。これは教室の設備維持費や光熱費に充てられるものですが、この金額、ここ20年でかなり上がっています。
2000年代前半から中盤は500円〜1,000円程度の教室が主流でした。それが2010年代後半には1,500円〜2,000円が平均的になり、2020年代の現在は2,000円超えが一般化しています。中には2,750円(税込)という教室も存在します。
「え、そんなに上がってるの?」と驚く方もいるかもしれません。
実際、ある地方の特約店では、2024年に施設費を500円から600円へ、200円から300円へと段階的に引き上げると発表しています。こうした値上げは全国各地で起きています。
ここでポイントなのは、ヤマハ本部が一律に管理費を決めているわけではなく、各教室(特約店)が独自に設定できるということ。
つまり、地域や設備に応じて「この教室は2,000円」「この教室は2,500円」と、柔軟に値上げができる仕組みになっているのです。
生徒数が減っても、一人あたりの管理費収入を増やせば、売上は維持できる——これが各特約店(楽器店)の”静かな収益確保策”です。
ちなみに、この管理費はヤマハ本体に入るわけではなく、教室を運営する各地の特約店の収益になります。つまり、特約店にとっては生徒数減少を補う重要な収入源なのです。
保護者からすると「また値上げか…家計のやりくり、大変なのに」と思うかもしれませんが、経営的には非常に合理的な判断と言えます。
生き残れる理由③:小さい教室を閉めて、大きい教室に集中
3つ目の理由は、教室の”選択と集中”です。
ヤマハ音楽教室が閉鎖しているのは、主に郊外の小規模教室です。生徒数が少なく、維持コストに見合わない教室から順番に撤退している。
一方で、駅前の大型センターや都市部の旗艦教室は維持、場合によっては強化しています。
これは企業としては当然の判断です。
小さな赤字教室を10箇所維持するより、大きな黒字教室を5箇所に集中させた方が、利益率は上がります。「教室数が減った=経営が悪化した」とは限らないのです。
むしろ、教室数を減らすことで、1教室あたりの収益性を高めているというのが実態でしょう。
「近所のヤマハ音楽教室がなくなった」という話は、その教室が採算に合わなかったということ。残念ですが、ビジネスとしては”損切り”されたのです。
保護者として知っておくべきこと
ここまで読んで、「じゃあ結局、ヤマハ音楽教室に通い続けていいの?」と思った方もいるでしょう。私も一人の母親として、同じ疑問を持ちました。
結論から言えば、ヤマハ音楽教室のカリキュラムやシステムは依然として高品質です。長年の実績があり、教材の完成度も高い。「ヤマハ音楽教室だから」という理由で通い続ける価値は十分にあります。
ただし、以下の点は意識しておいた方がいいでしょう。
まず、管理費は今後も上がる可能性があるということ。月謝だけでなく、トータルコストで考える習慣をつけましょう。お子さんの習い事にかける予算、一度見直してみてもいいかもしれませんね。
次に、通っている教室が閉鎖される可能性もゼロではありません。特に郊外の小規模教室は要注意です。万が一閉鎖された場合、別の教室への移籍が必要になります。
そして、ヤマハ音楽教室以外の選択肢も視野に入れておくこと。個人の先生や他の音楽教室にも、優れた指導者はたくさんいます。「ヤマハ音楽教室一択」ではなく、お子さんの性格や成長に合った環境を柔軟に探す姿勢が大切です。何より、お子さんが楽しく音楽を続けられることが一番ですから。
まとめ:ヤマハ音楽教室は”縮小しながら強くなっている”

ヤマハ音楽教室は、国内の教室数が減っているにもかかわらず、衰退する気配がありません。
その理由は、海外展開による収益の多様化、管理費の段階的な値上げ、そして教室の選択と集中という3つの戦略にあります。
見方を変えれば、ヤマハ音楽教室は「縮小」しているのではなく、「再編」しているのです。
赤字の教室を切り捨て、黒字の教室に集中し、海外で新たな市場を開拓する——これは衰退ではなく、生き残りのための”進化”と言えるかもしれません。
ただ、その進化の過程で、近所の教室がなくなったり、管理費が上がったりすることは、私たち保護者にとっては負担増になります。正直、ちょっとモヤモヤしますよね。
「ヤマハ音楽教室だから大丈夫」と思考停止せず、教室の状況を定期的にチェックし、必要に応じて他の選択肢も検討する——それが、これからの音楽教室選びで大切な姿勢ではないでしょうか。
ヤマハ音楽教室は2030年までに国内生徒数40万人への回復を目標に掲げています。その目標が達成されるかどうか、同じ子育て世代として、そして業界ウォッチャーとして注目しています。
参考資料 – ヤマハ音楽教室公式サイト – ヤマハ音楽教室 よくあるご質問 – 一般財団法人ヤマハ音楽振興会 – ヤマハ音楽振興会 事業報告・財務情報 – ヤマハ株式会社 統合報告書
※内容は2025年7月現在の情報を元に構成