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生ピアノを買わない生徒に起きるデジタル弾きという現象

生ピアノを買わない生徒に起きるデジタル弾きという現象-ONFAN

「うちの子、電子ピアノだけでずっと練習してるけど大丈夫かな」

そんな不安を抱えている保護者の方、実は少なくないんです。前回は「ピアノ教室で急増するピアノを買わない生徒の所有率とは」で、ピアノ教室に通う生徒のうち、生ピアノを持っているのはおよそ3〜4割程度にとどまるかもしれないという数字と、ピアノの価格がまた値上がりしている背景をお伝えしました。今回は、その所有の差が、実際に生徒の演奏にどんな形で表れているのかを見ていきたいと思います。

電子ピアノで身につく意外な弾き方のクセ

複数のピアノ教室の先生たちが口をそろえて挙げるのが、「デジタル弾き」と呼ばれる弾き方のクセです。

具体的には、音の強弱の変化が極端になってしまったり、スタッカートがどの曲でも同じような「ピョンピョン跳ねる」弾き方になってしまったりすることが多いようです。ペダルの踏み替えのタイミングや踏み込む深さも、耳で聴き分けながら調整する経験が少ないぶん、うまくコントロールできないケースがよく見られます。弱い音を繊細に表現するのも、電子ピアノでは意外と難しいポイントだといいます。

これは、電子ピアノの性能が悪いからというより、鍵盤やスピーカーの仕組み上、生ピアノほど繊細に音が変化しないことが影響しているようです。生ピアノは、弾く人の力加減がそのまま音色の違いとして返ってくる楽器です。その分、耳と指先で微妙な調整を重ねながら育っていく感覚が、電子ピアノでは身につきにくいのかもしれません。

ただ、これは電子ピアノそのものの限界というわけでもなさそうです。多くの電子ピアノには鍵盤のタッチ感度を調整する機能がついていて、標準設定のままだと鍵盤が軽く感じられ、音量のコントロールがしにくくなることがあります。設定を少し重めに変えるだけでも、弾き心地の印象がぐっと変わることもあるようです。また、ご家庭でマスターボリュームを極端に小さく設定していたために、知らないうちに力任せの弾き方が身についてしまっていた、という先生の証言もありました。楽器そのものというより、おうちでの使い方が影響している場合も意外と多いのかもしれません。

ピアノ発表会直前に気づく生ピアノとのギャップ

発表会直前に気づく生ピアノとのギャップ

このクセが一番はっきり表れるのが、発表会やコンクールを控えた時期だそうです。

普段は電子ピアノで練習していて、レッスンも先生が自宅に出張で来てくれる形式だったため、日常的には電子ピアノでレッスンを受けてきたという生徒もいます。そういった生徒が、本番前に初めて先生のお宅でグランドピアノに触れてみたところ、それまでできていたはずの強弱やペダル操作が急にうまくいかなくなった、という経験は複数の教室で共通して語られていました。教室に通って生ピアノでレッスンを受けている場合は、こういったギャップに早めに気づきやすいのですが、出張レッスンで日常的に電子ピアノに触れている場合は、発覚が本番直前までずれ込みやすいようです。

「今まで問題なく弾けていたはずなのに」という戸惑いは、生徒本人だけでなく、保護者の方にとっても、ちょっとしたショックとして残ってしまうことが多いといいます。

ここで気になるのが、この差の発覚がなぜ本番直前までずれ込んでしまうのかということです。家庭側が違いを理解していなかった、というだけでは説明がつかない部分もありそうです。コンクールや発表会で繊細な表現を求める先生であれば、本来はもっと早い段階で生ピアノへの切り替えを勧めるはずです。それでも踏み込んだ提案がされないまま進んでしまうのは、生ピアノを勧めることで費用の負担を理由に生徒が教室を離れてしまうかもしれない、という先生側の不安が関係しているのかもしれません。演奏技術は熱心に教えていても、楽器そのものの違いという根本の部分には、あえて触れずにいる先生も一定数いるようです。

こうした状態が続くと、生徒の気持ちにも少しずつ影響が出てくるようです。本番のたびに思うように弾けない経験を重ねることで、ピアノそのものへの苦手意識が強まってしまう子もいます。本来楽しいはずのピアノが、本番のたびに苦しいものに変わっていくとしたら、それはとても寂しいことです。こうした積み重ねが、レッスンを続ける気力を失わせてしまい、静かに退会という選択につながっているケースもあるようです。楽器の違いという入口の部分を早めに共有できていれば、防げたかもしれない離脱なのかもしれません。

電子ピアノでも楽しく続けている生徒もいます

電子ピアノでも楽しく続けている生徒もいます-ONFAN

ここまでの話だけを聞くと、電子ピアノでは上達できないように感じてしまうかもしれません。でも実際には、電子ピアノのままでも問題なく楽しんでいる生徒や教室もたくさんあります。

ある教室では「電子ピアノでの受講でも大丈夫ですよ、上達しますよ」とはっきり伝え、まずは鍵盤楽器そのものを楽しむことを大切にしているそうです。住宅事情や経済的な事情から電子ピアノを選ぶご家庭が増えている今、「電子ピアノ=おうちのピアノ」という考え方は、もうすっかり当たり前になってきているという声もありました。

趣味としてピアノを楽しみたいお子さんや、発表会・コンクールを目標にしていないお子さんにとっては、多少デジタル弾きの傾向があったとしても、それが大きな壁になるとは限りません。生ピアノとの違いを実感する機会自体が少なければ、本人がストレスを感じることも自然と少なくなるはずです。

ピアノの所有の有無で本当に差が出るのか

ここまで見てきたことをまとめると、電子ピアノと生ピアノの違いは、確かに弾き方のクセとして出てくるものの、それがそのまま「上達できない」という結論につながるわけではなさそうです。

デジタル弾きの傾向は、発表会やコンクールのように繊細な表現力が求められる場面でこそ目立ちやすくなります。逆にいえば、そうした本番を目指していないお子さんにとっては、日々のレッスンの中で大きな支障として感じられにくいのかもしれません。ピアノの所有の有無がもたらす差は、一律に語れるものではなく、そのお子さんが何を目標にピアノを続けているかによって、意味合いが変わってくるといえそうです。

もし、これから発表会やコンクールを意識していきたいと考えているなら、早めに先生と生ピアノへの切り替えについて話しておくと、本番直前のギャップに驚くことも少なくなるはずです。逆に、楽しく続けることを一番に考えているなら、今の環境を大切にしながら、先生とコミュニケーションを取り続けることが、お子さんのモチベーションを守ることにつながっていくのではないでしょうか。

こうした生徒側の実感の差を、実際に指導しているピアノの先生たちはどう受け止めているのでしょうか。次回は、ピアノの先生たちの視点に立って、生ピアノにこだわる先生と、こだわらない先生、それぞれの指導観の違いを掘り下げていきます。


出典

  • 宮地楽器「電子ピアノとの違い ~ピアノを入手する前に~」
  • ピアノ教室.net「Q&A:アップライトと電子ピアノでは、長い目で見て上達に違いは?」
  • graine music「電子ピアノでは上手にならないの? 音楽講師が感じたこと」
  • こねこのて音楽教室「電子ピアノの『デジタル弾き』を直すには?」
  • liberte music school「電子ピアノでも練習に問題ないの?」
  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
音葉

音葉

音楽教室ウォッチャー

音楽教室業界に関わって10年以上。楽器店での販売・教室運営サポートを経験し、現在はフリーライターとして活動中。 業界の内側を知っているからこそ書ける「誰も教えてくれなかった話」をモットーに、保護者が本当に知りたい情報、先生が言いにくい本音を発信しています。 自身も4歳からピアノを習い、今は小学生の子どもを音楽教室に通わせる"現役の保護者"。親として感じる疑問や不安も、記事に反映させています。 好きな作曲家はドビュッシー。子どもの発表会では毎回キャパ超えで号泣する、ごく普通の音楽好きな親です。

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