誰も教えてくれなかったピアノ教室・音楽教室ホントの話

業界裏話

ピアノの先生同士で生徒情報が回っている?個人情報流出の実態

ピアノの先生が保護者の情報を同業者に流している?知らないでは済まされない実態-ONFAN

読者からこんな声が届いた。

「ピアノ教室を辞めようとしたら、先生から『近隣の先生たちと情報を共有しているから』と言われた。これって普通のことなんでしょうか。法的に問題はないんでしょうか」

この一通がきっかけで、私たちは同様の経験を持つ保護者からの声を集め始めた。すると、似たような話が複数届いた。「問題のある保護者の情報は先生同士で回っている」という話を、ピアノの先生自身がSNSで公言しているケースがある、という内容だった。

はたしてこれは「普通のこと」なのか。そして法的に問題はないのか。結論から言えば、普通ではないし、法的にも問題がある


「先生が問題のある生徒の情報を先生同士で回している」という声が届いた

私たちに届いた声の中には、実際にピアノ教室を移籍しようとした際に「前の先生からあなたのことを聞いている」と言われた、というものもあった。

もちろん、先生同士が知り合いで自然に話題に上がることもある。ピアノの先生は地域のコミュニティの中で顔見知りであることも多く、日常的な情報交換の延長でそういった話が出ることはゼロではないかもしれない。

ただ、近年はSNS上で「問題のある生徒や保護者の情報は同業者間で共有する」と公言するピアノの先生の投稿が見られるようになっている。口頭でのやりとりとは異なり、SNSでの公言は不特定多数の目に触れる。その発言を目にした保護者が不安を感じるのは、当然のことだと私たちは思っている。


何が「問題のある生徒・保護者」として記録されているのか

では、何が「問題あり」と判断されるのか。

SNS上での発言や、ピアノの先生同士のコミュニティで語られる内容を見ると、「時間を守らない」「月謝の支払いが遅れがち」「無断欠席が多い」「レッスン内容に過度な注文をつける」「無理な要求をしてくる」といった項目が挙げられることがある。

一部については、ピアノ教室の運営上の実害として先生が困る気持ちは理解できる。ただ問題なのは、こうした判断基準が保護者には一切知らされないまま「問題あり」のレッテルが貼られる点だ。どの行動がどの程度で「問題」とみなされるのか、その基準はピアノの先生側の主観によって決まり、保護者には確認する手段がない。知らないうちに評価され、見知らぬ先生に情報が伝わっている可能性があるとすれば、それは保護者にとって深刻な問題と言える。

さらに、こんなケースも耳にする。体験レッスンに訪れた人物が、どのテキストを使っているか、どんな指導の進め方をするかを熱心に観察していた、というものだ。先生の側からすれば不信感を覚えるのも無理はない。

ただ、立ち止まって考えてほしい。その人物が「スパイ」だとして、では誰が何のために送り込んだのだろうか。

現実的に想定されるのは、近所の別のピアノ教室の先生が、自分の生徒やその保護者に「ちょっと様子を見てきて」と頼んだというケースだ。指導法や使用教材を調査するための「草の根リサーチ」とも言える。もしそれが事実だとすれば、問題のある行為は観察に来た側だけでなく、それを指示した先生の側にもある。

しかし本稿で問いたいのはそこではない。仮に「スパイ行為だ」と判断したとして、その人物の情報をSNSで公言したり、同業者に流したりすることが許されるのか。その答えは、後述するように明確にノーである。


保護者の情報を無断で第三者に伝えることの法的な問題

ピアノの先生が「問題のある保護者の情報を同業者に伝える」という行為は、個人情報保護法の観点から看過できない問題を含んでいる。

個人情報保護法第2条は、「個人情報」を「生存する個人に関する情報であって、氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と定義している。氏名や連絡先はもちろんのこと、「この保護者はトラブルを起こした」「態度が悪い」といった評価情報も、特定の個人に紐づく情報として個人情報に該当しうる。

そして同法第27条は、本人の同意を得ることなく個人データを第三者に提供することを、原則として禁じている。

同業者間での保護者情報の共有は、この規定に正面から抵触する可能性がある。


一般企業がやれば即アウト なぜピアノの先生には許されると思うのか

ここで、一般企業における個人情報の取り扱いと比較してみたい。

個人情報保護委員会が公表している「個人情報保護法ヒヤリハット事例集」には、次のような事例が明確にアウトとして掲載されている。「退職した元従業員について、再就職活動先の人事担当者から勤怠状況や退職理由を聞かれ、伝えそうになった」。これは、本人の同意なく評価情報を第三者(同業他社)に伝えることが法的に問題のある行為だという、国の公式見解だ。

実際に問題となった事例もある。ある就職情報サービスが、就活生約8,000人分の「内定辞退率」の予測データを、本人の同意なく企業に提供していたことが発覚し、個人情報保護法違反として個人情報保護委員会から行政指導を受けた。氏名や住所ではなく「評価に関する情報」を無断で第三者に提供することが、法的に問題とされた事例だ。

さらに深刻な事例もある。元従業員が前職の名刺情報システムにアクセスし、顧客情報を転職先に提供したとして、個人情報データベース等不正提供罪で逮捕・起訴され、有罪が確定している。「同業者に情報を渡す」という行為が、刑事事件にまで発展した例だ。

こうした事例を踏まえ、ある弁護士事務所は次のように明記している。「業界慣行にかかわらず、必要に応じて自社としてのコンプライアンス対応を適切に検討していくことが重要」と。

つまり、「ピアノ教室業界ではみんなやっている」は法的な免罪符にはならない。

一般企業の担当者が「問題のあった取引先の情報を同業他社に流す」行為が即アウトであるように、ピアノの先生が「問題のあった保護者の情報を近隣の先生に流す」行為も、同じ法律のもとで同じように問題のある行為になりうる。にもかかわらず、ピアノ教室という業界では、この種の情報共有が「当然の自衛手段」として語られることがある。この認識のギャップを、私たちは深刻な問題だと感じている。


「言うことを聞かないと情報を流す」、それは脅迫ではないのか

問題の核心はここにある。

「問題のある保護者の情報は近隣のピアノの先生と共有する」という発言が、ピアノ教室に通う保護者の目に触れるとき、それはどのように読まれるか。

「ここで問題を起こしたら、他のピアノ教室にも情報が流れる」という意味として受け取られても、不思議ではない。事実、私たちに届いた声の中には「先生から情報共有をほのめかされて、言いたいことが言えなくなった」という内容のものがあった。

言うことを聞かなければ情報を流す。この構図が成立しているとすれば、それは保護者に対する心理的な圧力として機能している。法律上の「脅迫罪」が成立するかどうかは個別の状況によるが、保護者が萎縮し、正当な意見や不満を言えなくなる状況を作り出す行為は、教育の場にふさわしいものとは言えない。

さらに、特定の人物に関する情報をSNSで公開した場合、内容によっては名誉毀損やプライバシー侵害として問われる可能性もある。SNSをピアノの先生が自分を守るための武器として使うことが、かえって自分に刃を向けることになるという現実を、業界全体で理解してほしいと思っている。


保護者が今できること

私たちがこの記事で伝えたいのは、保護者を不安にさせることではない。事実を知った上で、自分の立場を理解してほしいということだ。

ピアノ教室との関係において、保護者には正当な権利がある。ピアノ教室を移籍することも、退会を選ぶことも、体験レッスン後に入会を見合わせることも、いずれも保護者の自由な選択であり、それを理由に不利益な扱いを受けるべき理由はない。

もし「情報を共有する」という趣旨の発言をピアノの先生から受けた場合、あるいはSNS上でそのような内容を目にした場合、それが自分の個人情報の取り扱いに関わる問題である可能性を念頭に置いてほしい。具体的な被害が生じた場合には、個人情報保護委員会への相談窓口や、消費生活センターへの相談という選択肢がある。

ピアノ教室は、子どもが音楽と出会う場であり、保護者が安心して子どもを預けられる場であるべきだ。その前提となる信頼関係は、情報を「持っている」側が一方的に優位に立つ構図からは生まれない。

私たちはこうした声を引き続き取り上げ、保護者が正しい情報を持てる環境をつくるために発信を続ける。またSNS上で個人情報の無断共有を公言する投稿を確認した場合、私たちは編集部として個人情報保護委員会への情報提供を行っている。この姿勢を今後も続けていく。


相談窓口

  • 個人情報保護委員会 相談ダイヤル:0120-700-779
  • 消費者ホットライン:188(いやや)

出典

  • 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第2条・第27条
  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法 ヒヤリハット事例集」
  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)」
  • 個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法の違反行為に係る事例等」(令和6年9月26日)
  • 牛島総合法律事務所「個人情報保護委員会による行政指導の近時の傾向」
  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
ONFAN.編集デスク

ONFAN.編集デスク

業界の外側から、真実を届ける。

音楽教室業界の構造的な問題を、業界の外側から伝え続けるONFAN.編集部。保護者からの声をもとに、誰も書かなかったピアノ教室の真実を発信しています。

  1. ピアノの先生が50代で直面する現実 生徒が減り心が苦しくなる実態

  2. ピアノの先生同士で生徒情報が回っている?個人情報流出の実態

  3. ピアノの先生が鬱病になりやすい理由 業界が隠してきた実態

RECOMMEND
RANKING
YEAR
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5

関連記事

PAGE TOP