知り合いの保護者から、こんな話を聞きました。義理のお母様が使っていたグランドピアノを手放すことになり、いくつかの買取業者に見積もりを依頼したそうです。その中でヤマハから届いたメールに書かれていたキャッチコピーが、こうだったといいます。
「ヤマハに返そう、ヤマハのピアノ」
これを見た瞬間、なんとも言えない違和感を覚えたそうです。返そう、という言葉の選び方に、どこか「うちのピアノはうちに戻すのが正解」と言われているような感覚があったのだと思います。ですが、実際にヤマハへ査定を依頼した結果は、他の買取業者より買取価格が安いというものでした。本当にこれが正解なんだろうか。そんなもやっとした感情になったとのことです。
この違和感、果たして気のせいなのか。それとも何か理由があるのか。今回はそのあたりを、業界の内側にいた立場と、実際にネット上で見つかった声の両方から整理してみたいと思います。
「ヤマハに返そう」は使い捨てのコピーじゃなかった

まず最初に確認しておきたいのが、「ヤマハに返そう」というフレーズが、たまたま今回のメールだけに使われた言い回しなのかどうかという点です。
ヤマハピアノサービスの公式サイトを見てみると、利用者の声としてこんな言葉が紹介されています。「処分となるとどこか離れがたい思いもあり、ヤマハ様にお返しするのだとようやく気持ちの整理がつきました」。また別の利用者の声では「このピアノがまた誰かの手に渡り、音楽を愛してほしいと願います」という言葉も掲載されています。公式サイトの説明文にも「ヤマハのピアノはきちんと整備をすれば50年、100年の時を経ても美しい音を奏で続ける」「次の世代へと繋ぐ」という表現が繰り返し登場します。
つまり今回のメールの言葉は、思いつきのキャッチコピーではなく、ヤマハが意図的に育ててきたブランディング言語だということがわかります。「自分が育てたピアノだからこそ、最後まで責任を持つ」という物語を見せることで、手放す側の罪悪感や寂しさを和らげる効果を狙っているのだと考えられます。これ自体は、決して悪いことではありません。長年連れ添ったピアノを手放す瞬間は、多くの方にとって感傷的なものですから、その気持ちに寄り添う言葉があること自体は理にかなっています。
ただ、その物語性の強さと、実際に提示される査定額が必ずしも比例しないという点は、知っておいて損はないように思います。
ヤマハだからピアノ買取査定が高いとは限らない
中古ピアノ買取の専門サイトには、興味深い指摘があります。買取専門会社の方が高値で買い取ってくれるケースがあり、製造メーカーは正確な査定を行っているものの、高価買取サービスは実施していない、という解説です。つまりヤマハのような製造元は「正確さ」を重視する立場であって、「一番高く」を競う立場には、そもそも立っていないということになります。
この違いは、ヤマハピアノサービスと買取専門業者それぞれが公式サイトで打ち出している言葉にもはっきり表れています。ヤマハピアノサービスが明言しているのは「査定後に金額が下がることはない」という安定性で、事実と異なる申告がない限り査定金額の100%を保証する、という表現にとどまります。一方、買取専門業者の中には「どこよりも高く買わせていただく自信があります」と、明確に高値そのものを打ち出しているところもあります。同じ「買取」というサービスでも、掲げているゴールが最初から違うわけです。
実際にネット上の声を見ても、同じピアノを複数業者に査定してもらった結果、5万円から30万円まで開いたという体験談がYahoo知恵袋に投稿されています。別の口コミサイトでは、業者間で6万円から19万円まで差がついたという声もありました。あるピアノ買取業者の公式サイトに掲載された口コミでは、一括査定で複数社に依頼したところ、最初に高額査定を出した会社の半額にも届かない金額を別の会社が提示し、さらに別の業者ではその4分の1以下という金額が出たという実例も紹介されています。こうした差は、ヤマハに限った話ではなく買取業界全体に見られる傾向ですが、「正確さ」を軸にする業者と「高値」を軸にする業者が混在している以上、同じピアノでも提示額に差が生まれるのは、むしろ自然な結果だと言えそうです。
実際のピアノ買取実績から分かる買取業者選び方

言葉の方向性だけでなく、実際に公開されている買取実績の数字も見てみます。あるピアノ買取業者が公開している実績では、1999年製のヤマハC3というグランドピアノが、定価のおよそ4割にあたる64万円で買い取られています。同じく1999年製のC7は76万円、1960年代に製造されたG2は10万円という実績もありました。これらはヤマハ製のピアノを、ヤマハ以外の買取専門業者が査定した結果です。
もちろん状態や時期によって金額は変わるため、これだけで「ヤマハより専門業者の方が高い」と単純に言い切ることはできません。ただ、ヤマハという同じブランドのピアノであっても、査定するのがメーカー本体か買取専門業者かによって、見ている軸そのものが違うということは、覚えておいて損はなさそうです。メーカー直営は「ブランドを傷つけない正確な査定」を軸にしていて、買取専門業者は「価格競争で選ばれること」を軸にしている。この立ち位置の違いが、結果として査定額の差につながっているのだと考えられます。どちらが優れているという話ではなく、何を優先したいかによって、選ぶべき相手が変わってくるということなのだと思います。
「ヤマハに返そう」という言葉に感じた違和感は、思い出を託す物語と、実際の査定額という二つの別の話が、一つの文章の中で同時に語られていたことから生まれていたのかもしれません。長年使ったピアノへの愛着を大切にしたいという気持ちと、できるだけ納得できる金額で手放したいという気持ちは、どちらも自然なものです。そしてこの二つは、必ずしも同じ会社で両立するとは限らないというのが、今回調べてわかったことでした。
もし今、ピアノの買取を検討している方がいらっしゃったら、感情を託す先と、査定額を比較する先を、いったん分けて考えてみるのも一つの方法だと思います。複数社に見積もりを依頼してみることで、自分のピアノに対する評価のばらつきが見えてきますし、そのうえでどの会社にお願いするかを選べば、きっと納得感のある手放し方ができるはずです。
出典
- ヤマハピアノサービス公式サイト(利用者の声・買取サービス案内)
- ピアノ買取センター公式サイト(グランドピアノ買取実績)
- グランドギャラリー公式サイト(買取方針)
- NETOFF買取ナビ「ピアノ買取業者おすすめランキング」
- Yahoo!知恵袋「ピアノを売りたいんですけど」(2015年9月)
- 引越し侍「ピアノ買取一括査定」口コミまとめ
- 未来ピアノガーデン公式サイト(買取査定情報・口コミ)